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安達和悦物語


24 夢回帰線時代7 営業  


「安達さん、電話替わってください。お客さん、怒ってるんです。」
 僕の職場である事務機器販売会社でのことだった。昼休みを過ぎ、午後のサービス巡回に出ようとしたとき、事務の女性に呼び止められた。
 電話に出ると、僕が以前修理に行った町工場の社長さんだった。ファクシミリに紙がつまってしまい困っていると言う。しかも、最近修理したばかりなのに、と大変なご立腹だ。クレームだよ、まいったな、とは思わず、まずは社長さんの延々と続くお叱りの話に、じっと耳を傾けた。

「たむちゃん、ファックス一台ご成約だよ。」
 電話を切ると、僕は事務の彼女にそう告げた。きょとんとする彼女に、僕は続けた。
「とってもお怒りだったから、とにかく怒りのエネルギーを出し切るまで、じっと聞き続けたんだ。それから、少し落ち着いたところで、充分に謝罪し、どのような症状なのか、具体的に聞いてみた。以前、修理に行ってるから、そのファックスのクセはわかっていたんだ。でも、リースも切れてるし、もう寿命で、軸受け部の磨耗が激しくて、おまけにそこだけ直しても、他もすぐにいかれる可能性が高い。そのことを説明して、新機種の特徴を説明したら、じゃあすぐに持ってきてくれって。」
「安達さん、凄い。あんなに怒ってたのに。」
「ね。きれいに決まっちゃったね。」

 サービスをやりながら、販売を提案するというスタイルでなかば営業的な動きをしていた僕に、やがて上司から辞令が言い渡された。

「安達君、営業専任でやってみないか。今度、営業組織を改変し、三洋電機の協力会社をメインに展開する三洋部隊を構成する。そこに、2人の新人営業をつけるから、主任として面倒見て欲しい。」
 その言葉に、僕は悩むことは無かった。ノルマによるストレスを受けたくないという理由で、これまでサービスと営業の兼務だったが、実際には「目標」と言う名のノルマがすでに課せられていたし、実際、こなしていた。やっていける自信はあった。

「須永弘二です。よろしくお願いします。」
 それが、須永君との初めての出会いだった。小柄で細かった。愛嬌のある雰囲気ながら、素直でまじめな印象だった。しかし、その瞳の輝きに、一途な頑固さがのぞいていた。
 もう一人は、Kさん。ほわんとした、とぼけた感じを持つ優しそうな独身女性だった。この二人が、僕の部下になった。僕ら3人は、三洋電機の協力会へ、どのように何を販売していくかを考えた。仕事もまた、面白くなってきた。

 会社の先輩であるAさんが、言った。
「安達さあ、俺の同級生が経営に参加してるコンビニでな、安達の劇団のチケットを売ったらいいと思うんだけど、どうかな。」
 願っても無いことである。本部に出向き、すぐにお願いした。劇団のチケットは、これまでチケットぴあと手売りだけだった。ぴあは、まだ足利近辺では販売所も少なかったので、販売拡大につながると思った。

 そのコンビニチェーンは、両毛地域で多店舗展開をしていた。第3回公演の宣伝印刷物ができると、市内数店舗ある店分用意して、本部に届けた。また、公演が近づくと、新聞各社にも宣伝をお願いする手紙を書いた。

「CRT、今日のオープンスタジオは、足利の劇団夢回帰線86/91を主宰する安堂達也さんをお招きしています。」
 栃木放送も、生で宣伝させてくれた。新聞各社も、栃木版紙面右上一等地に大々的に取り上げてくれた。
「失踪した彼を探す美少女の物語」
 タイトルも、僕の書いたキャッチをそのまま使ってくれた。すべてが順調に進んでいるように見えた。


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